註:平成29年6月26日 クリニックかしま看護師の協力を得て改訂
ここでは,患者さんやご家族に対し,私が普段麻酔前診察でお話ししている標準的な内容を,文章形式でご紹介します.
通常約20分掛けてお話しします.
長文なので,お茶でも用意するか,小分けにして読んでみて下さい.
まず,あまりに不安・緊張の強い人には以下のようにお話しします.
病気や怪我が原因で,手術が決まります.
皆さんはその時点から,不安・心配,緊張あるいは恐怖の時間を過ごすこととなります.
そこで我々は「心配はありませんよ!」と笑顔で話しかけます.
すると患者さんは笑顔で安心・・・なんて出来るわけ無いですよね.
なぜなら,不安・心配・緊張・恐怖はしたくてしているわけでは無く,勝手に湧いてくるものだからです.
ではこれから一生で一番の心配をして下さい.
そして手術が終わった後に,「あんなに心配して損した」と思って貰えればいいのです.
では早速お話しを始めますね.
麻酔の準備は前日から始まります.
前日の夕方から何も食べられなくなります.
そして,夜9時からは何も飲めなくなります.
胃の中に飲食物があると,胃酸(塩酸)が出ます.この胃酸が胃に溜まっている状況で全身麻酔を受けてしまうと,相当厳しい肺炎の可能性があります.
ですが胃の中を空にしておけば,この肺炎の心配をがくっと減らす事が出来ます.そのために絶飲食にご協力お願いします.
また,夜9時にはよく眠られるよう飲み薬を出します.飲む際は必要な水は飲んでも構いません.
薬を飲んで,ぐっすり休んで下さい.
<当日朝〜手術前>
手術室には予定時刻には到着しています.
ですがその時刻まで,飲まず食わずでずっと待っていなければなりません.
そこで朝に(場合によってはもう1度,昼頃)安定剤を処方します.
しかも相当しっかり効くよう処方します.
結果ウトウトできればウトウトできる程,ドキドキ・ソワソワ・イライラせず,ゆったり待つことが出来ます.
ただウトウトできれば出来るほど,人によってはフラフラします.
処方しておいて申し分けないですが,安定剤を飲んだ後は,転ばないよう転ばないよう,充分に気を付けて下さい.
少しでも転ぶ不安があれば無理せず,すぐにナースコールを押して,助けて貰って下さい.
<手術室>
ウトウト状態で手術室に入って貰います.
まず手術用のベッドに仰向けになり,血圧計や心電図計を付けます.
硬膜外麻酔(こうまくがいますい)用の細い管を入れるため,一旦真横向きになり,ぐぐっと背中を丸めて貰います.
その真ん中に痛み止めの注射をします.
そこへ細い管を約10cm程挿入し,抜けないように肩まで絆創膏で固定します.(実物をご覧に入れます)
実はこの処置は相当痛いです.(わざと脅かしています)
仰向けに戻った後,点滴からお薬が入ります.
そして眠った後は麻酔薬の効果で,自分での呼吸が無くなります.
そこで小指の太さくらいの管を口から気管まで入れて(気管挿管・きかんそうかん),手術が終わるまで人工呼吸をしますので,麻酔薬で呼吸が無くなっても心配は要りません.
人工呼吸が落ち着くといよいよ手術が始まりますが,手術終了まで,モニターと呼ばれる機械で,患者さんの呼吸と心臓の状態を見張ります.
また,これは全身麻酔専用の脳波計です.
脳波を解析することで,まさか麻酔薬に不足はないか,または多すぎてしまってないか,今は分かる時代なのです.
これらの機械を使用して,手術が終わるまであなたの身体を見守ります.
また万が一何か起きてしまったとしても,そばから離れず,速やかに治療できるよう側にずっと付き添っていますから,眠っている間も心配は要りませんよ.
次に輸血の可能性ですが,今回の手術では心配も含めてほとんどゼロとお話ししておきます.
さて,私が麻酔を行う目的はたった一つしかありません.それは手術というものからあなたの「身体」と「心」を同時に守ることです.
ところがその守るべき麻酔が,かえって具合を悪くさせてしまうことがあります.
特に,肥満,喫煙,心臓病,高血圧,喘息,糖尿病 などは厳重な注意が必要です.
また,気管挿管は大変苦しいものです.なので当然のように眠ってから管を入れるのですが,そんな苦しい管が手術の間中入っているわけですから,目覚めた後ときに喉の方が痛かったり,声が擦れてしまうことがあります.
ですが,これらは通常1日で自然と良くなりますので,気にせずに放っておいて下さい.
さらにとてもまれですが,手術を受けているほんの数時間の間に,脳梗塞が起きたり,心筋梗塞が起きてしまったり,肺塞栓症が起きてしまうこともゼロではありません.
現代医学でも100%の予防はまだ出来ませんが,万一起きてもすぐに治療できるよう,私が見張っています.
さて,怖いお話しはここまで.
そうこうしているうちに手術が終わります.
喉に入れた管を抜くのも,とても苦しいです.なので目が醒める直前,気付く前には既に抜いておきますね.
その代わり,次の朝まで口元には酸素マスクが着いています.
とても綺麗な酸素を流します.時に深呼吸をして,たっぷり肺に吸い込んでください.
<手術後>
次に病棟へ戻った時の状態ですが,これが・・・まだまだウトウト状態です.
麻酔に使った鎮痛剤や鎮静剤の効果を,手術室でゼロにするのではなく,2−3割残して戻ってきます.
なので眠くて眠くて仕方ありません.どうぞ好きなだけお昼寝して下さい.
これらの薬で眠いわけですから当然,どこが痛いわけでもなく,何が苦しいわけでもなく,ベッドの上でゆっくり安静にしていられます.
しかしこのウトウトにも欠点が一つあります.
日中余りに眠いので,そのまま放っておくと夜になって目が冴え,朝まで一睡も出来ない心配が残ります.
なので夜8時から朝の6時まで,眠る点滴を用意します.
これで朝までぐっすり休んで下さい.
ところがこの点滴だけでは眠られません.
何が絶対に必要かと云えば・・・それは痛み止めです.
先ほど背中に細い管を入れるお話しをしました.
私たちは「持続硬膜外ブロック」と呼んでいますが,実はこの細い管は,背骨の隙間から脊髄のすぐ近くまで入っています.
そして肩まで絆創膏で固定した先には,こんなものを繋げます.
これも実物です.カプセルです.中に水風船の入ったカプセルです.
なんの水が入った風船かというと,これがとても強力な痛み止めが入った風船です.
風船が縮む力を利用して72時間.三日三晩,背中から痛み止めが入り続けます.
これを使っても,体動時痛といって,咳をしたり,くしゃみが出たり,誰かに笑わされたり,ベッドに起きようとしたり,逆に横になろうとする時は,やはり痛いです.そこはなんとか頑張って下さい.
ですが,安静時痛にはとても有効です.
安静時ベッドで動かずにゆっくり休んでいる時には,どこに傷があるのか分からないくらい,痛みを取り去ります.
また傷の痛みの感じ方には個人差があります.
四六時中痛がる人もいれば,不思議なくらい平気な人も居ます.
もし想像より痛みが強い場合には,迷わずナースコールを押して,看護師に相談して下さい.
主治医より既に座剤や,肩の注射が用意されていますし,この時代,傷の痛みを我慢する必要は「いっさい」ありませんから.
さて,ここで一旦話しを朝に戻します.
「転ばないで」っていうほど強い薬を出すと云いました.
これにはもう一つの目的があります.
私の目論見どおり薬が効いてくれるとどうなるかというと・・・
恐らく翌朝目が醒めた時.
自分がいつ手術室に移動したかを思い出すことは,相当難しいでしょう.
そして背中の注射,いつ,どこにそんな注射をされたのか,これを憶えている人はほとんど居ません.
ウトウトして戻ってきますから,帰ってきたことを憶えている人もほとんど居ないのです.
そのまま眠る点滴と背中の痛み止めででぐっすり休んで貰います,
最期に朝に目が醒めた時,どこも痛くなければ,手術を受けたという実感もないまま,一晩,明けてしまうのです.
このような流れで良いでしょうか?
(ここで,過去の同じ手術を受けた人の痛み・睡眠・嘔吐・記憶のデータを見せて,納得してもらっています)
さて最後のお話しです.
このコンピュータには明日のあなたの手術に関する,個人情報・個人データが入っています.
この他にも,手術中・後の「呼吸・循環・疼痛など」のデータが出来ます.
そのデータの一部が,場合によっては「学会」あるいは「論文」に用いられることがあります.
しかしながら,個人情報が簡単に悪用される時代になってしまいましたから,学会からは,どこの誰だか分かる情報は除き,しっかりプライバシーを守るよう,ガイドラインが作られています.
そのガイドラインに則り,これらの情報・データを管理します.
以上で私のお話しは終わりですが,現時点で何か心配なことはありませんか?
では明日,よろしくお願いします.(これで説明終了)
こんな感じです.フーッ.
勿論相手により,数種類のパターンを使い分けています.
さて,最後まで読んで頂き,ありがとうございます..
また,そんな話しは嫌だとか,こんな事を知りたいんだ,のようなリクエストを頂けると,私の説明が鍛えられて大変助かります.
忌憚の無いご意見をお待ちしています.
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